2009年7月

「ポストモダンの共産主義 はじめは悲劇として、二度めは笑劇として」
 スラヴォイ・ジジェク/著 栗原百代/訳   筑摩書房   税込価格 945円

ゼロ年代の始まりと終わりを画した二度の資本主義の大破綻、
すなわち9.11同時多発テロと、リーマンショックによる金融大崩壊
(本書の副題「はじめは悲劇として、二度めは笑劇として」はもちろんこれに由る)が暴いてしまったように、
フランシス・フクヤマ曰くの「歴史の終わり」のユートピアなど実は到来していなかった。

そこで、 「恐れるな、戻っておいで!反コミュニストごっこは、もうおしまいだ。そのことは不問に付そう。
もう一度、本気でコミュニズムに取り組むべきときだ!(本書P258)」 と、
三度目の正直としての「ポストモダンの共産主義」をぶち上げる!のかと思いきや、
この引用、実は結びの一文で、最後まで読み通してもその構想自体は明確には見えてこない。
いや、ジジェクの「本気」自体はバリバリ伝わってくるが。

そんなわけで。
積もりに積もったうつつの問題を総ざらいにした一大カタログ
(と、それらに対する毒とユーモア、皮肉と挑発に充ちた熱きつっこみ集)として本書を読むのが正解のような気がするし、
実際そう読んでみて、大いに溜飲の下がる箇所多数。

スラヴォイ・ジジェク、かっこええやないか。

「血のケープタウン」
 ロジャー・スミス/著 長野きよみ/訳   早川書房   税込価格 1,008円

映画『インビクタス / 負けざる者たち』・『第9地区』公開にサッカーW杯開催と、
ここしばらく注目の集まる南アフリカはケープタウンが舞台のクライムノベル。著者デビュー作。

とある事件を発端に、主人公である米国人逃亡犯・元ギャングの夜警・狂信的キリスト教徒の悪徳警官以上3名の利害がこじれ、
主人公の家族・悪徳警官を追うエリート公安・そしてケープ・フラッツ(アパルトヘイトの時代以来の貧民街)にひしめく数多のカラード(混血人種)たちを巻き込みながら、
銘々どん詰まりへと向け、地獄の板子一枚上を駆けずり回る―というのがストーリーの骨子。

殆どの登場人物が強烈な魅力を放つが、
傑出しているのは文字通り“STINK”な人物として描かれる悪徳警官・バーナードの存在感!
肥えた腿の汗疹と痔のケアに、シッカロールと軟膏〈プリパレーションH〉が欠かせない彼が行なう彼なりの〈世直し〉の数々と、
それら全ての報いを一身に受け、業火に包まれる壮絶な最期はあらゆる意味で、胸を打つ。

作者本人はE・レナードやR・スタークの影響を公言しているようだが、
本作にレナードっぽさはさほどなし(訳者あとがきによると、未邦訳の第二作目がその系列に入るよう…)。

また、ネット界隈では「G・P・ペレケーノスを彷彿させる」「第2のペレケーノス誕生か?」というようなコメントも幾らかあって、
これには大賛成!

というわけで、最後に本書帯の惹句。
「新世代暗黒小説の傑作誕生!生粋の南アフリカ人作家が描く、話題の国のダークサイド。
 われわれ”北”の国々が失った本物の渇きと祈りがここにある」